2002年5月4日 『ディー・ヴェルト』紙

インタビュー:「どの国もEU加盟国になれるわけではありません」

次の拡大ラウンド後には欧州連合は新たな加盟国受け入れがほぼ不可能となろう。なぜなら拡大EUはその統合能力に過重な負担をかけぬよう用心する必要があるからである、とギュンター・フェアホイゲンEU拡大委員は警告する。

ヴェルト:
フェアホイゲンさん、プローディ委員長率いる欧州委員会の5年の任期はその半分が過ぎました。拡大担当委員の個人的な中間決算はどうでしょうか?

フェアホイゲン:
この2年半に明確で戦略的かつ信頼に足る拡大構想を展開することができました。私たちは確固たる枠組みを持つ拡大交渉のタイムスケジュールを立て、またこれを順守してきました。今後なおどのような問題が解決を必要とするかは見通しがつきます。EU拡大がどんな大掛かりなプロジェクトであるか、もう一度考えてみてください。EUサイドに限っても1000人以上の担当者がこの計画に携わっているのです。私たちが主導しているプロセスは、27カ国、トルコを含めれば28の主権国家が加わっているプロセスであり、20000以上の案件について議論を行っているのです。これは史上最大の国際的交渉プロセスです。この計画の枠組みを作り、規定のコースに導くことは大変な仕事です。ただひとつ私が憂慮しているのは、過去2年半の間にこのプロジェクトに対する真に強力な世論や市民の支持を獲得できなかった点です。拡大は依然としてエリートのプロジェクトに留まっているのです。この面に関してはまだ成すべきことがたくさんあると考えます。

ヴェルト:
1999年の就任以来、あなたはEUの拡大戦略を根本的に変えました。数カ国の選ばれた国々と交渉するのではなく、加盟候補12カ国すべてと協議を開始しました。このパラダイム転換は割に合ったのでしょうか?

フェアホイゲン:
たとえ私たちにとって、どの国も独自かつ個別的に評価されるという政治的原則が引き続き一義的な重要性を持つにしても、私はどの国が早くゴールするかといういわゆるレガッタモデルを掲げたことは一度もありません。私はこの原則を尊重しながらも、今後幾年にもわたって連続的に小さな拡大を処理せねばならぬ事態を避ける、政治的な計画に基づく拡大モデルを志向してきました。全加盟候補国との平等の拡大交渉のおかげで、EUは候補国の改革の方向性と質に対して良い影響を及ぼすことに成功しました。当初懐疑的であった人々も今では、拡大交渉のもたらす圧力なしには加盟候補国の改革がこれほど早く進捗しなかっただろうとの私の意見に賛同してくれます。

ヴェルト:
15カ国の現EUの諸機構は、少なくとも10カ国の新規加盟国受け入れで負担過剰となりませんか?

フェアホイゲン:
私の考えでは、EUの諸機構への影響は制御可能と思います。EUは2004年に最大で10カ国を受け入れる可能性があるとの私の提案は、当初は驚愕をもって受け止められました。しかし事実に目を向ければ良く理解できます。当初名の挙がった6カ国の加盟ではEU加盟人口は6300万ですが、10カ国の加盟の場合は7500万人です。財政的見地からも相違はそれほど重大なものではありません。むしろ重要なのは、私たちが2004年の大規模な適応プロセスを受け入れるのか、それとも少なくともこうしたラウンドを三度体験するのかという選択です。後者ならば、EUは2年ごとに再編が必要となり、これは解決不可能だったことでしょう。

ヴェルト:
しかしそれでもなお、どのようにしたらEUは史上最大の拡大を処理できるかという疑問が残ります。これほど多くの新規加盟国を受け入れれば、EUの深化が滞るのではないでしょうか。

フェアホイゲン:
EUは協力関係を深めれば深めるほど、どんな拡大も難しくなります。なぜなら要求が高くなるからです。この逆もあてはまります。つまり、どんな拡大でも将来の深化を容易するものではありません。これは二つの根本的真理です。しかしだからといって両者が不可能になるというわけではありません。ハードルが高くなるだけです。加盟を希望している国々は、圧倒的に統合に積極的な姿勢を見せています。彼らは現加盟国同様、特定の領域では一層の欧州統合を望んでいます。たとえば外交・安全保障政策ですし、また内務および司法の分野です。EU諸機構に対する改革圧力は今回の拡大にのみ基づくものではなく、過去の拡大に由来するものなのです。

ヴェルト:
EUは新規加盟国受け入れによって具体的には何を得るのでしょうか?

フェアホイゲン:
EUにとり決定的な重要性を持つのは、私たちがバルト海とボスポラス海峡に挟まれた圏内の政治的安定を達成するという点です。これはロシアからもますます利点として認識されつつあります。純粋に経済的に述べるならば、EUにとってこの圏内の不安定性によるコストは、安定をはかるコストよりずっと高くつくのです。拡大プロセスによる経済的利益も否定できません。新規加盟国のダイナミックな経済発展が予測されるからです。また全体的に欧州の役割は拡大によって強まることでしょう。欧州は従来よりも強力に世界の秩序を構成する役割を演じることができるのです。

ヴェルト:
戦略政治的な理由から考えても正しいのかもしれません。しかし加盟候補国の間には、すでにEU内では克服済みのナショナリズムの台頭の兆しがうかがえないでしょうか。ベネシュ布告をめぐる議論もこれをはっきりと裏付けていませんか?

フェアホイゲン:
私も国中に感情の高まりが見られたことに驚いています。私たちがこの件で抱えているのは対話の問題です。シュレージエン、ポンメルン、あるいは東プロイセンの人々はいつの時点かで今日のポーランドと和解を結びました。ズデーテンドイツ人とチェコ人の関係においても確かに和解がなされました。しかしまた一方でいろいろな言葉の問題や相互の不信も残っています。ベネシュ布告をめぐる議論には理性と冷静さが欠如しています。EUにとっては、今日のチェコの法秩序においてEU条約の要求に反するような要素が存在するか否かが問題となります。この布告の大部分は今日もはや新たな法的効力を及ぼすことはありません。誰もベネシュ布告に基づいて恣意的に財産剥奪されることはないのです。また、もしチェコの法秩序にEU市民を差別する規定があれば、チェコ政府はこれを削除する義務を負っています。

ヴェルト:
それではベネシュ布告はEU拡大には何ら問題とはならないのですね?

フェアホイゲン:
チェコの全ての法秩序がEU法に適合する必要がありますので、この布告には一定の重要性があります。しかし、ドイツ・チェコ間、オーストリア・チェコ間の関係における過去の重荷を拡大交渉の枠内で解決するなどということはEUの任務とはなりません。ここで問われているのは歴史的道義的な問題です。私はプラハ訪問で、いつ誰に対して行われようとも不正は不正と認めねばならないと明確に述べました。ドイツ・チェコ和解宣言はこの文脈で正しい道を指し示しています。私が懸念するのは、議論が現在極端に走っていることです。チェコでは選挙戦が行われており、ベネシュ布告に関する発言はいかなるものであれドイツおよびオーストリアに波紋を呼び、ひいては欧州議会に影響を及ぼします。私が忠告できるのは、「みなさん、言葉を慎んでください」ということだけです。この傷口がふさがるまで私たちには時間が必要なのです。しかし、ほかにどんな過去の悪霊が今なお活動しているというのでしょうか?私にはまったく認められません。

ヴェルト:
しかしバルカン半島ではまだはっきりとその存在が認められます。にもかかわらずEUはバルカン諸国に加盟の展望を与えました。EUは新規加盟候補国の取り扱いであまりにも大盤振舞いをしているのではないでしょうか。バルカン諸国、さらにはロシアも候補国となるのでしょうか?

フェアホイゲン:
EUは21世紀の全体設計にあたり、加盟の約束以上のものを道具箱に用意する必要があります。ロシアとウクライナはなお長い間、私たちの統合能力を超える負担となるでしょう。EU拡大以外にも協力関係の形態があることをはっきりさせる必要があります。たとえばパートナーシップの深化です。私は中期的にはこちらの方が良い解決策と考えます。

ヴェルト:
それではこれによって欧州すなわちEUの地理的境界が画定されるのですね?

フェアホイゲン:
EUの構成に関する議論はすでに将来像会議(Konvent)で始まっています。しかし欧州は地理的にはとうてい定義不可能です。これは信仰の問題に等しいと言えます。欧州は歴史的・文化的概念でもあります。しかしEUの境界はかなり長い間、現在私たちが将来の東の境界と認めうるラインに留まることでしょう。すなわちおおよそノールカプ岬からボスポラス海峡あたりまでです。この比較的閉鎖的な領域に不安定な孤島が残っています。西バルカンです。私たちはこの問題を解決する必要があります。しかし私たちは人工的に加盟を実現させることはできません。加盟条件が満たされねばならないのです。西バルカンの国々は潜在的加盟候補国ですが、加盟に至るまでにはなお山のような課題を果たす必要があります。

ヴェルト:
これはEUにしてみれば、現在の拡大ラウンド後にはせいぜいバルカン諸国にしか空席がないということを意味するのでしょうか。

フェアホイゲン:
そうです。そして私の意見では、これをもって私たちは自らの統合能力の明らかな限界に到達することになると思います。私たちは、手を差し伸べようと思う国すべてにEU加盟を約束できるわけではありません。しかしきわめて長いスパンで見れば、新しい認識が生まれる可能性もあります。

インタビュアーはアンドレーアス・ミッデルとカーチャ・リッダーブッシュ

原題:Das Interview: "Nicht jeder kann Mitglied der EU sein"
Nach der naechsten Erweiterungsrunde wird die Europaeische Union kaum noch neue Mitglieder aufnehmen koennen. Denn die vergroesserte EU muss darauf achten, ihre Integrationskraefte nicht zu ueberfordern, warnt Guenter Verheugen